IVR医になるには

研修制度について


卒後は前期研修(2年間、さまざまな診療科)後期研修(3年間、専門とする診療科)を経て、専門とする診療科の研修(2年間、放射線科では診断専門医、治療専門医のどちらかを専門とする)に進みます。IVRの研修は後期研修から始め、放射線診断専門医または放射線治療専門医を取得すると、IVR専門医試験を受験する資格が得られます。

【参考サイト】IVR学会HP
https://www.jsir.or.jp/kaiin/doctor/

(2021年12月現在)

【IVR医になるには】

高瀬 圭(東北大学放射線診断科)
インターベンショナルラジオロジー(IVR)とは
インターベンショナルラジオロジー(Interventional Radiology:以下IVR)とは、画像診断の技術を応用して、エックス線透視、超音波、CT、時にはMRIなどで観察しながら、カテーテルや穿刺針などの様々なデバイスを使用して行う治療のことです。生検や静脈サンプリングのような診断行為も含んでいます。しっくりとくる日本語がなかなか無いのですが、最近では「画像下治療」と訳すことにしています。治療の種類によっては、カテーテル治療、血管内手術、血管内治療、経皮的治療等と呼ばれることもあります。英語ではIVRではなくて、IRと略されます。

IVR医は、体内の状態を画像でリアルタイムに、また時には被曝を最小限にするために敢えて間欠的透視で観察しながら、針やカテーテルを血管や胆管、実質臓器、肺、骨などにすすめ,そこで病変部の治療や生検を行います。
腫瘍を栄養している血管を詰めたり抗がん剤を入れたりする、腫瘍自体を焼く・凍らせる、狭くなってしまった血管を拡げる、拡大して瘤化してしまった血管を治療する、出血している血管を詰める、深部にある組織を採取する、膿瘍をドレナージする等々、極めて多くの種類のIVRがあります。画像診断技術とIVRに使用する用具および技術の著しい発達により、以前は手術をしなければならなかった多くの病変が、小さな傷口から低侵襲で治せるようになってきました。今後の医療においても、IVRはますます重要性を増してくるでしょう。
では、IVR医になるには、どのような道筋があるでしょう。主に放射線科医としてIVRを行う場合を中心に、私の経験も含めてお話しさせていただきます。まず、専門医の制度としては、IVR学会の認定する「IVR専門医」があります。将来的には日本専門医機構の認定する専門医になる可能性がありますが、現在は学会認定の専門医です。IVR専門医になるには、まずは日本医学放射線学会の専門医、日本脈管学会の専門医、または日本脳神経血管内治療学会の専門医のいずれかを取得していることが必要です。さらに、IVR学会の認定する修練施設での2年以上のIVR研修を要します。

放射線科医からIVR医になる場合
具体的に、放射線科医からIVRになる場合を例に示します。放射線科専門医は基本領域学会なので、初期研修終了後に日本専門医機構認定の「放射線科専門研修プログラム」に登録し、3年間の放射線科研修を行います。放射線診断と放射線治療領域の両方を研修しますが、IVR医を目指す場合には可能な範囲でIVRの研修比率を少し多くすることも可能です。放射線科専門研修修了後には、サブスペシャルティーである2年間の「放射線診断専門研修」を行います。放射線科専門医研修の総合修練機関または連携機関で研修を行います。IVR医になるには、IVR学会認定の修練施設を兼ねている病院を選びましょう。勿論、IVR学会に入会しておいてください。サブスペシャルティー研修の1年目の夏には、専門医機構認定の「放射線科専門医認定試験」が行われるので、これに合格する必要があります。放射線診断専門研修を修了したら、翌年には「放射線診断専門医認定試験」を受けながら、さらにIVRの研修を続けます。規定のIVR研修と症例を経験したら、IVR専門医試験を受験できます。 制度を述べると最短でも8年の研修が必要で諸規定も堅苦しいですが、実際の症例を経験しながら基本的なIVR手技を学び、IVR専門医試験を受ける頃には、IVRの中でもどの領域を特に専門とするかがある程度決まってくる場合もあります。IVRの中でも特に腫瘍を対象にする施設や医師もあれば、血管疾患、脳血管、頭頚部といった領域を特に行うIVR医もいます。救急を専門とする部署で働くIVR医もいます。

私の歩いた道
以前の制度での研修にはなりますが、私の場合を例に、少しお話します。
基本領域に相当する「放射線科専門医」を大学病院で研修中にIVRに興味を持ちました。さらに市中病院で肝臓癌の塞栓術や胆道系IVR等を教わった後に、少し特殊なのですが心臓血管に興味を持ち、大阪にある国立循環器病センターで研修をさせていただきました。放射線科医が心臓カテーテルを行っていた時代です。小児先天性心疾患の心臓カテーテル検査とIVR、成人の動脈管開存症の塞栓術等の研修を受け、指導医の洗練された技術に非常に感銘を受けました。冠動脈造影や心筋生検といった診断カテーテルに加え、当時保険収載前の血管ステントを用いた閉塞性動脈硬化症のIVRや体肺動脈短絡の塞栓術、ごく初期の大動脈ステントグラフト等に参加させていただきました。大阪での研修中に「放射線診断専門医」を取得しました。その後、地方病院の放射線部責任者となり、全身のIVRをほぼ一人で行わなければならない状態で6年を過ごした後に大学病院に戻りました。この間にIVR専門医を取得しました。

IVRのトレーニング・業務 あれこれ
IVR修行の仕方は様々で、あらゆる種類の症例を少人数で診療しなければならないようなactiveな市中・地域病院で叩き上げの修行をする方法もありますし、特定の疾患を多く扱っているセンター的な施設で修行するのも良いでしょう。若い時期に症例の多い施設で過ごすのはたいへん意義のあることです。センター的な施設に内地留学をする例も多いと思いますが、ある程度IVRの専門領域を決めた上で研修をすることになるでしょう。IVR専門医取得後にさらに高度な経験を積むために専門施設に行くことも有効です。ある領域を突き詰めてその道の専門家になる人材は貴重ですが、一方で第一線の病院で全般的なIVRを行える医師となって地域医療に貢献する人材がいることも欠かせません。腫瘍を中心にするがんセンター的な施設がある一方で、血管疾患を代表とする非悪性疾患を主な対象としている施設もあり、働く場によって必要とされるIVRもかなり異なります。 日常臨床をIVRで支えることはたいへん重要で尊敬されるべきことですが、それのみで飽き足らない人は、新たな医療機器開発を行うこともIVR医の重要な仕事です。名人芸で行われていたIVR手技をさらに普及させるには、「優れた用具の開発」が必要であり、これは医工産学連携による医療機器開発で達成されるものです。新規デバイスの開発は欧米の後塵を拝することが多く、医療機器は輸入超過です。国益のためにも国産医療機器開発が待たれます。

IVRに必要な資質・・・器用でないとIVRはできないのか?
IVR医になるために必要な資質として、人並外れて器用である必要もありません。殆どすべてのIVRは真摯な勉強と研修で身に着けられるものです。経験を積み、冷静かつ公平に適用を決定できることや適切な用具を選択できること、難しい局面で「次の一手」を繰り出す手技の引き出しを持っていることがより重要と考えます。また、これからは女性医師にもIVRに大いに加わっていただきたいと考えます。女性特有の疾患のIVRも発展していますし、ダイバーシティーと働き方改革の時代になり、研修や勤務も行いやすく改善されて行きます。

画像診断進歩の恩恵に預かりながら、新たな手技が開発されて進歩を続けるIVRに携わり、発展させるのは大きな喜びです。IVR医になるには様々な道がありますが、どの道も魅力的です。この魅力ある世界の門を叩いていただければと思います。

(2022年1月)